美容室の開業までの流れと必要な資金・手続きを解説

author:長岡税理士事務所

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自分の美容室やヘアサロンの開業を目標としている美容師さんは多いと思います。最近では「美容室の経営」や「独立」について授業の一環として取り入れる美容専門学校も多くなってきていますが、「美容師」として日々技術を身に着ける一方で「美容室の開業」についての専門知識を勉強することはとても大変です。

今回は「美容室の開業までの流れ」について、わかりやすく解説します。

1. 美容室開業までの流れ

1-1. 事前準備

(1) 市場調査

自分がどのような美容室を出店したいのかを考える前に業界全体の流行やトレンド、エリアごとの人口や世帯数など市場調査を行う必要があります。事前に市場調査を行っておくことで事業計画を作成する際に「そもそもターゲット層が違う」など根本的な間違いを防ぐことが出来ます。

(2) コンセプト立案

市場調査によって集めた情報をもとに「どのようなお店にするのか?」といったコンセプトの立案を行います。コンセプトを考える際は次の3つのポイントを意識することが重要です。

  1. サービスのターゲット層を明確化する
  2. 競合との差別化を考える
  3. 初見の人に説明できるくらい具体化する

(3) 事業計画書の作成

事業計画はコンセプトをもとに美容室を運営していく際の事業内容や戦略、収益予測などを行い、作成する計画書になります。

(4) 店舗物件の調査、選定

市場調査をもとに出店エリアを決め、希望に合った店舗物件を探していきます。希望する物件が契約できてもすぐに利用できるわけではありません。人気のエリアで物件を選定する場合は内装工事などの期間を考慮し、早い段階から物件調査を開始する必要があります。

1-2. 資金調達

店舗物件が決まると開業に必要な具体的な金額が見えてきます。自己資本だけで足りない場合は資金調達が必要になります。資金調達には下記方法があります。

  • 日本政策金融公庫からの融資
  • 地方銀行や信用金庫からの保証協会付融資
  • 自治体などによる助成金
  • 親戚などからの援助

※ 融資の手続きの開始時期ですが、良い物件が見つかり、物件の申し込みを出した段階から開始するとよいでしょう。

1-3. 内装工事

内装工事の費用や期間は店舗の大きさやシャンプー台の数などによって大きく変わります。また、元々美容室を運用していて設備を残したままのいわゆる「居抜き物件」の場合は、費用や期間を短縮することも可能です。

1-4. 従業員の採用

内装工事が始まりオープン日が決まったら従業員の採用を行います。従業員の技術はお店の評価や売り上げに直結します。都心でも人手不足が深刻化しており、有能な人材がなかなか集まらないケースもあります。オープンから逆算し、余裕をもって採用活動を行う必要があります。

1-5. 開業手続き

美容室を開業するためには保健所の許可や消防署による検査などさまざまな手続きが必要です。また、スタッフを採用する場合には、労働保険の手続きも必要になります。

1-6. 店舗オープン

開業にあたる手続きなどが終わり、いよいよ美容室のオープンになります。規模やエリアにもよりますが、美容室の開業には最短でも2か月半はかかります。

2. 美容室の開業に必要な資格とは?

美容室を開業するためには当然「美容師免許」が必要になります。一人で美容室を営業する場合は美容師免許のみで開業が可能ですが、自分以外に1名以上の美容師・スタイリストを雇う場合は「管理美容師免許」の取得が必要になります。

2-1. 美容師免許

美容師免許とは、理容師法に基づいて発行される国家資格の一つです。美容師専門学校などの厚生労働省が指定する美容師養成施設にて、所定学科の習得、年に2回行われる美容師国家試験(実技試験・学科試験)に合格することで取得可能です。

2-2. 管理美容師免許

管理美容師免許とは美容室や理容室を衛生的に管理するための公衆衛生に関わる専門知識を管理者に講じるための免許です。1968(昭和43)年の法改正により、従業員が常時2人以上の美容室では管理美容師の配置が義務づけられており、違反した場合は期間を定めた店舗閉鎖を命じられる可能性があります。

3. 開業に必要な手続き・届出

美容室の開業にあたっては様々な手続きや書類の提出が必要になります。

3-1. 保健所 美容室開設届の提出

美容室の開業を行う前に、保健所に「美容室開設届」を提出し、保健所職員による検査を受ける必要があります。

「床面積の広さ」「衛生管理」など細かな基準を満たしていない場合は、開業できないので事前に管轄の保健所に相談しておくことをおすすめします。

3-2. 消防署 消防検査の依頼

美容室以外の店舗同様に「火災報知器」や「消火器」などの消防機材が適切に設置・作動するかなどの消防検査の依頼が必要です。保健所同様に基準をクリアしていない場合は開業できません。

3-3. 税務署 開業届の提出

開業届は開業してから1か月以内に、管轄の税務署に提出が必要になります。開業届を提出すると、青色申告の確定申告を行うことで最大65万円の特別控除を受けることが出来ます。

3-4. 労務関連 雇用保険の加入など

従業員を雇用する場合には「雇用保険」などの手続きも必要になります。

雇用保険適用事業所設置届、雇用保険被保険者資格取得届→ハローワークに提出

保険関係成立届、概算保険料申告書→労働基準監督署に提出

健康保険・厚生年金保険 新規適用届→年金事務所に提出 など

4. 美容室の開業資金の目安

美容室を開業するにあたり、開業資金は気になるポイントの一つだと思います。店舗費用、内装費用、人件費など総額すると高額の費用が必要になります。

4-1. 開業資金の目安は1,500万円~

東京都内と郊外では店舗家賃が全く違いますし、運営するお店の規模にもよりますが、一般的に1,500~3,000万円程度の開業資金が必要と言われています。

もちろん「青山」などの人気エリアではさらに高額な資金が必要になりますが、開業資金のおおよその内訳を説明します。

4-2. 開業資金の内訳(開業資金が1,500万円の場合)

(1) 物件取得費 100~200万円

美容室を開業する場合、自宅サロンやビル所有者でない限り、賃貸物件で運営することになります。物件を賃貸するためには敷金・礼金・仲介手数料・数か月分の前払い家賃など多額の初期費用が発生します。

(2) 内装・外装費用 800万円

開業資金の大部分は内装・外装費用が占めているケースが多いです。床板・壁紙・空調・配線・水道などの内装部分、外壁・ドア・看板などの外壁部分の工事費用が必要になります。

内外装費用はこだわればその分高額になりますが、営業が始まった後は大規模な改修はできなくなるので慎重に進める必要があります。

(3) 備品・機材費 200万円

美容室を経営するにあたって必要な備品や機材をそろえる必要があります。

シャンプー台、レジカウンター、施術用の椅子、鏡、パーマ用機器、パソコン、洗濯機、エアコンなど

(4) 宣伝広告費 50~100万円

美容室の予約は大半がインターネットからの予約になり、ホームページの作成や予約ポータルサイトへの登録・掲載など集客のための宣伝広告費は重要になります。

(5) 運転資金 150~300万円

美容室に限らず店舗運営には毎月の家賃・水道光熱費・通信費・人件費などのランニングコストが発生します。想定外の出費やトラブルに対応できるように少なくとも3か月分の運転資金は用意しておくと良いでしょう。

4-3. 自己資金がゼロでも美容室の開業はできる?

結論から言うと自己資金がゼロの場合、美容室の開業は難しい可能性が高いです。

先述した開業資金の内訳からも「物件取得」「内外装工事」でかなりの金額が必要なることがわかります。仮に政府関係機関でもある日本政策金融公庫から開業資金を融資してもらう場合でも、開業資金の3割は自己資金から出資している傾向があるため、自己資金がゼロの場合、融資の審査が通らない可能性が高いです。

5. 美容室を自宅で開業する際の注意

自宅を所有している人の中には自宅を美容室として改装したいと考えている人もいると思います。自宅で美容室を開業する際のメリット・デメリットを紹介します。

メリット1:費用を安く済ませることが出来る

自宅を利用する最大のメリットは費用を安く済ませられることです。持ち家の場合は月々の費用は掛かりませので、月々のランニングコストを抑えることができます。

メリット2:通勤時間がかからない

通勤時間が一切かからないのもメリットの一つです。電車やバスなどを利用して通勤する場合、Door-to-Doorで1時間以上かかることも珍しくありません。貴重な時間を無駄にせず、交通費も一切かからないのは魅力的です。

メリット3:自分のライフスタイルに合わせた働き方ができる

賃貸では月の家賃がかかるので、その分利益を最大化するために営業時間を長く設定する必要がありますが、自宅で開業すれば自分のライフスタイルに合わせて営業時間を短くするなどの働き方も可能になります。

デメリット1:立地による集客力の問題

美容室の集客にとって「駅からのアクセス」「人気エリア」など立地は非常に重要です。持ち家の場合、引っ越す以外に立地条件を変更する方法はないので家の住所によっては集客が難しいこともあります。

デメリット2:他の美容室と差別化する必要がある

美容室にとって技術力はもちろん重要ですが内装・外装やお店の雰囲気も重要になります。

単に「髪を切りに行く」だけでなく1つのイベントとして捉えているユーザーにとって生活感のある持ち家はマイナスに働く可能性があります。

デメリット3:容積率が決まっている

自宅で美容室を開業する際には「美容室の店舗部分の割合が住居全体の半分を超えてはならない」といった条件があります。容積率などの条件は地域によって異なりますが、自宅で行う際は座席数が限られることに注意してください。

6. 美容室の開業資金の調達方法

美容室の開業資金を調達する際に、親族などからの援助を除いては日本政策金融公庫からの調達が一般的です。

6-1. 日本政策金融公庫(日本公庫)

日本政策金融公庫は政府系金融機関であり民間の金融機関に比べて創業融資に積極的であり、美容室やサロンの開業に伴う融資の実績も多いので、まずは日本政策金融公庫へ開業資金の相談へ行くのがおすすめです。

日本政策金融公庫では固定低金利かつ長期融資が無担保・無保証で借りることが可能です。

6-2. 銀行などの民間金融機関の活用

資金調達額、融資額が大きくなる場合は民間金融機関を活用して日本政策金融公庫と一緒に融資の申請を行う協調融資を行います。

各金融機関は融資額の分散を図り、リスクの分散を実現し、開業に向けて資金調達を可能にしていきます。

銀行など民間金融機関では開業など実績のない新規事業者への融資は消極的で融資の際には担保が必要になるケースがあります。また、美容室は許認可業種になるため、銀行で融資を受ける際には事前に営業許可証を提出する必要があります。営業許可証は店舗の内外装工事、美容機材等の準備など営業可能な状態になってから保健所に申請手続きを行うので開業資金の調達には間に合いません。

6-3. 美容室開業に伴う補助金・助成金

美容室の開業に特化した助成金や補助金は現在ありません。ただ、事業支援として活用できる助成金・補助金制度はあります。

7. 美容室の開業で失敗しないために

全国には約25万店舗の美容室・ヘアサロンがあり、開業した美容室の60%が1年以内、90%が3年以内に廃業すると言われています。

開業に失敗する美容室に共通点から解決策を学び、どうしたら競争率の高い美容室業界で成功できるかを解説します

失敗する美容室の共通点1:リサーチ不足

美容室の開業で失敗する一番の理由は「リサーチ不足」です。物件選びの際に「有名なエリアだから」「おしゃれな町だから」など自分の感覚で選んでしまい、失敗するケースが多いです。有名なエリアではお客様も多いですが、もちろん美容室も多く、その中で「ターゲット層は何%いるのか」「競合の美容室の価格帯」など様々なリサーチを行う必要があります。

失敗する美容室の共通点2:資金不足

美容室の経営に限らず店舗の経営には予期せぬ出来事が必ず起きます。直近では新型コロナウィルスによる外出自粛の影響で多くの美容室が閉店に追い込まれました。外出自粛は特別な例としても、長く残る店舗の経営者は想定外の事態に備えた資金の準備は必ずしています。

失敗する美容室の共通点3:経営の勉強をしていない

美容師は美容専門学校を卒業してからも流行にあったカットやカラーなど技術の勉強が必要になります。ただ、経営は全く別の分野ですのでどんなに一流の技術があっても美容室経営の知識がなければ店舗の運営はできません。

個人で独立する際には財務、税務、労務、人事、マーケティング、ブランディングなどの知識は最低限身に着けておく必要があります。

美容室開業までのやることリストを作成

これまで「美容室の開業までの流れ」や「開業までに必要な手続き」などを説明してきました。実際に文章で見てみるとかなり多く感じると思います。また、流れだけをみて場当たり的に開業準備をしても、想定外のトラブルや期間が足りないなど不完全な状況でオープンすることになり、うまくいかず廃業に繋がってしまう事もあります。

美容室の開業までに必要なことをリストすることで、万全な状態で開業に着手できるようにしましょう。

8.融資や資金繰りでお困りの方は長岡税理士事務所

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下記のようなご相談はもちろん、疑問や悩み事など、なんなりとご相談ください。

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